八重の桜の基礎知識ー西南戦争
来週の八重の桜は、西南戦争です。西南戦争は近代日本で最後の内戦と言っていいものです。実に規模が大きく、この戦争で薩摩側が大負けをして、この戦争の終結によって武士の時代が終わったと、司馬遼太郎さんは著書「翔ぶが如く」で述べられています。
大久保利通 |
この戦争の根本は、元々は大久保利通と西郷隆盛の対立が日本レベルまでになってしまったものです。なので、長州勢は大久保利通について、薩摩の武闘派と言われる人達は、西郷さんを建てる側に回りました。
何を対立したのかというと、征韓論というもので、西郷さんは明治維新を韓国にも輸出して、それで拒絶されたのであれば、今の不平士族を連れて征服してしまえという立場(極端に言うとですが)。一方大久保さんは、そんなことをしたら清国やイギリスが黙っていないし、そもそも日本にはそんな戦争をするためのお金がないからダメだという立場。それが政府を二分する状態になり、西郷さんは鹿児島に帰り、多くの薩摩人が西郷さんについていき、その薩摩人達が主力となって鹿児島に私学校ができ、彼らが薩摩軍の主力となりました。
桐野利秋 |
この戦争は、最終的には戦略を立てる政府側の山県有朋と、薩摩側の桐野利秋の戦いだったと僕は思いますね。その差が出てしまった。つまりどういうことかというと、当時の薩摩武士というのは、戦士として日本最強と自他とも認めるもので、実際に薩摩の兵士の強さが、明治維新を成し遂げ、薩摩の人達も当然それを自負してました。
一方で当時は近代化ということもあって、徴兵制を政府はやっていて、兵隊の対象が武士だけではなく、町人や百姓も兵士とするべく山県が中心になって制度を作ってました。ところが、当時は町人や百姓というものは弱いというのが定評であったため、武士出身者は見下していたところがありました。逆に武士が強いというのが、彼らの誇りの源にもなっていました。
ところが、長州は奇兵隊を幕末時に創設し、武士の軍隊よりも強かったということもあって、山県自身が奇兵隊出身ということもあり、徴兵制の良さを肌で知っているので、強く推進したという経緯があります。
結局西南戦争というのは、日本最強の武士集団である薩摩士族と町人や百姓を主体とした政府軍の一騎打ちになりました。もちろん政府軍に武士出身の人達は多くいました。今回の八重の桜では、山川浩や佐川官兵衛は政府軍として薩摩士族と戦うことになります。
これは結論から言うと、政府軍の圧勝に終わりますけれども、それが冒頭で話したとおり指揮官の戦略の優劣だったと思うのです。何故かといえば、政府軍の方は、最初から弱い兵隊、意気地のない兵隊を抱えているから、そのためにはどうしたらいいのかということを徹底的に考えました。そこで導き出した結論は、兵器で薩摩軍を上回るというものでした。ところが薩摩士族は、自分たちは最強でしかも西郷さんがいるから、その求心力で戦わずして東京を占領できるという信じられない戦略を立ててました。
つまり、西郷さんが立ち上がれば、全国の不平士族が立ち上がり、役人が威張り散らしている政府などは一蹴してしまえというものでした。結果的には、九州の一部が立ち上がった程度で、その彼らも薩摩軍のあまりの無謀な戦略に呆れて、離脱した例も多くありました。
政府軍がどれだけ弱兵だったかというと、イメージとしては映画のラストサムライで渡辺謙の軍隊に政府軍が逃げ惑うという状況でしたが、政府軍の指揮官は武士でしたし、できるだけ斬り合いにならないように銃をたくさん用意をしたということもあって、薩摩軍は最初は優勢でしたが、後半は撃つ弾丸もないという状況に陥りました。最後は鹿児島の城山にこもって、政府軍に囲まれてしまうということになります。
この辺りは、戦略家としての山県有朋が桐野利秋の差が出てしまったということもあります。ただ、不思議なのは西郷さんが神輿の載せられるだけで、言われるがままの状態だったようですね。戦う前に薩摩士族の前でこの体をさし上げましょうと言ったそうですが、それを実践してしまったところが西郷さんにはあります。
この戦争が政府軍の大勝利になったことで、司馬さんは武士の時代が終わったと書いてます。それは薩摩という、鎌倉以来武士らしさを追求した戦士集団が近代兵器を携えた平民たちに圧倒されたことで、精神的なものでは現実には勝てないということを証明し、これをきっかけに明治政府は強力な統一政権となりました。
この戦争で大きな皮肉だったのは、明治維新を樹立した原動力は薩摩士族が、この戦争では賊軍となり、明治維新の当時賊軍だった会津藩などは、官軍として薩摩軍と戦ったということです。会津士族が薩摩士族を攻撃する時は、「戊辰のかたき!」と言って飛び込んだって言います。明治政府も、そういう怨恨を利用したようですね。こういうのは政治というのはなかなか難しいというか、なかなか難しいところがあります。
因みに今回の八重の桜では吉川晃司が西郷さん役をやってますが、ま、これは失敗だったと思いますね。演技も下手だし、ああいうルックスの人が西郷さんをやるというのは、よほど既成概念を壊すくらいの演技をしないと難しいんじゃないかと思ったりしてます。
今回は少しコアな内容なので、今日の記事に登場した人物のウィキペディアのリンクを貼っておきます。