【書評】「独裁者」との交渉術
最近いつも思うのは、やたら「知」と言う言葉が横行してるのが、「知」と言う言葉とは真逆にいる僕としてはやっぱり気に入らない。そういうことを言う連中に限って、あまり目つきが良くないし、功利性が顕になっていると言うのは本人たちはわかってないんだろうか。はっきり言ってきれいでもないし、カッコよくもない。ああいう人たちには、能ある鷹は爪を隠すと言う言葉を送りたいのです。
「独裁者」との交渉術 (集英社新書 525A) 集英社 2010-01-15 |
今回紹介する「独裁者」との交渉術と言う本ですが、明石康という人のインタビューで構成されていまして、最近ノウハウ本が嫌いなので、最初に本屋さんでこの本を見たときに買うのを躊躇したのですが、目次をみたら、そうでもなさそうだったので、この本をゲットした。明石氏自身もこのタイトルはやりすぎとあとがきで述べています。ま、出版社の営業サイドで勝手につけてしまったんでしょう。この本はそういうノウハウ本ではありません。結果的に切った張ったの交渉があるので、そういう事になりますが、内容的にはどちらかと言うと回想録。その回想録としては、ここ10~20年ちょっとのことなので、時間的に共有している僕としてはものすごく面白く読めました。
まず、この明石さんと言う人物ですが、簡単に略歴を説明すると、日本人で初めて国連の職員として採用され、混乱の続くカンボジアに国連カンボジア暫定統治機構(UNTAC)事務総長特別代表に就任、カンボジア和平につとめ、その後今度は当時進行中であったユーゴスラヴィア紛争収拾のため旧ユーゴ問題担当・事務総長特別代表に就任した、日本人にしては珍しい外交家です。ただ、お気の毒だったのは、1999年に自公に擁せられて都知事選に立候補して、石原慎太郎に大敗してしまった。同じ都民としては、石原よりも明石さんの方が良かったと思うな。ただ、自公に擁されたと言うことと知名度の高い石原と言うのは相手が悪かった。ただ、彼の経験から言うと、内政と言うよりも、レベルとしては国政に携わった方がよかったと思う。
彼の仕事は、簡単に言うと、紛争地域に行き、紛争を収めるという仕事であり、これはかなり大変なことだ。なんといっても、お互いが軍隊を擁していがみ合ってるわけで、国内で政党がいがみ合っているというよりも、いがみ合えば即武力行使と言うことになるわけですからね。この本では、
- カンボジアでの紛争
- ユーゴスラビアでの紛争
- スリランカの内戦
といった戦争と言うよりも地域紛争と言ったレベルではありますが、その分問題が複雑に入り交じっているところに、その問題を解決するためにどのように行動をしたかと言うことが書かれています。カンボジアについては、4派に分かれていがみ合っているところを仲介したり、ユーゴスラビアにいたっては、七つの国境、六つの共和国、五つの民族、四つの言語、三つの宗教、二つの文字、一つの国家と言われるように、チトー大統領のような強力なリーダーがいなければ、ひとつにまとまらない国家連合が、チトー死後に崩壊し、内戦状態になりました。その中で国連側の担当者として、明石氏がどのようなことをしたのかということが、インタビュー形式で書かれているので、非常に読みやすく一気に読めましたよ。
カンボジア問題にしても、ユーゴスラビアにしても、スリランカにしても、それぞれ敵と味方が血で血を争う戦いを同じ国民同士がしていると言うこともあり、明石氏は双方の当事者と交渉をしているわけで、大変な緊張感があって、読み物としては大変面白い。明石氏としては、何をするにせよ、コミュニケーションが一番大事だと言うことを言っていて、かなり差し障りの無い結論なんですけど、当事者とのやりとりと言うのは、おもしろいですよ。シアヌークとかミロシェビッチとか、そういう人たちとのやり取りが面白いです。この明石さん、とてもお話が上手です。
【参考】
カンボジア内戦
ユーゴスラビア紛争
スリランカ内戦
最近は、ビジネス本ブームで、それに関連するブログも沢山あるけれど、そういった一連のビジネス本を読んでも、結局インターネットで散らかっている情報を整理しているだけのものが多くて、本当に身になるとは思えないと思うことが多いし、そういう人達に限って結局「知」がどうだとか言う人ばかりで、筆者自体に人間性に問題があるような気がする。功利性が顔に出すぎて、気持ちが悪い。自分からアピールすると言うことはそれで大事だと思うけれども、やはり過度なアピールは傍から見てて醜悪だ。
アピールと言うことで、少し余談を書きますが、日露戦争に話を切り替えると、日本陸軍で日露戦争に出征した将軍で奥保鞏という将軍がいます。
この人は小倉藩出身の軍人で当時の日本の政治形態から見ると、旧幕府側出身であったにも関わらず、その戦争上手が買われて、第4軍の司令官になります。本来政治や軍部を牛耳っているのは、薩長閥でしたし、将官の人材は当時はかなりいたと思いますが、敢えて奥が選ばれたと言うのは、軍人として優秀だったからです。その後日露役後、児玉源太郎の公認として参謀総長にも就任していると言うことから考えれば、いかに奥が優秀であったかと言うことがわかります。
その彼の人生の特徴は、自分の実績を自ら積極的に消していったということにあります。ですから、軍部内では奥の功績というのは、あまりしられていない。けれども奥なら安心と言う戦上手が買われて、結果的に栄達をしていく。こういう人が僕は本当に偉い人だと思いますよ。現代でもITで言えば、ソフトバンクの孫さんは、プレゼンテーションはとても高いと思うけれども、彼が俺はいかにすごいかということを聞いた人っていますか?三木谷さんだって、俺は楽天をここまで大きくしたというのを聞いたことがない。スティーブ・ジョブスやビル・ゲイツだってそうです。実績を残す人は自らを語りません。
余談が過ぎました。明石さんの話に戻ります。
その点、こういう自ら体験した人の言葉のほうが、重みもあるし、そう思うのは、僕が年を取っているのかなと思ったりしますが、言える事は、今売れているビジネス本が、10年後も読まれている本はそんなに多くないということです。昔、子供のときに親から名作を読めといわれましたが、本当にそう思う今日この頃です。年取ったな。おれ笑