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【書評】峠

NHKの龍馬伝、人気がすごいですね。どんどん便乗商法と言う感じで。まあ、幕末の時と言うのは、龍馬もそうだけれども、小説の主人公になれる人がどんどん出てきてますからね。あの時代は、本当に面白いと思いますよ。文字通り切った張ったですから。天下をとったのが、薩長土肥ですから、そっち出身の人が色々とクローズアップされていますけれども、その相手となった方にも、結構すごい人がいました。今日は、長岡藩の河井継之助の一生を描いたのが、「峠」と言う本です。

峠 (上巻) (新潮文庫) 峠 (上巻) (新潮文庫)

新潮社 2003-10
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幕末は、幕府を倒した方にメジャーな人がやっぱり多い。今の日本政府だって結局は薩長の流れを組んでいるわけだし、特に長州の流れを組んでいるケースが強い。長州と言うのは、今の山口県で安倍元総理も選挙区は山口県だし、あとは佐藤元総理、岸元総理と長州閥と言うのは厳然とある感じがする。

反幕府勢力だと、当時は薩摩だと西郷さん、大久保利通、長州だと桂小五郎、高杉晋作、もっと若くなれば、伊藤博文、山県有朋、土佐だと龍馬、武市半平太、板垣退助、肥前だと大隈重信、江藤新平と誰でも小説の主人公になれる。日本史的レベルの人材が雲霞の如く出現しました。

じゃあ、幕府側というか、薩長と敵対した勢力からは、一番有名なのは新選組であり、特に土方歳三は最後の最後まで抵抗し続けたのは有名な話です。あとは、勢力で言うと、会津藩とか桑名藩、それと長岡藩が最後まで抵抗し続けた。

幕末は、徳川慶喜が政権を朝廷に譲るというすごいことをしましたが、その直後王政復古の大号令がでて、それに憤慨する新選組や会津藩、桑名藩が薩長軍と戦いはじめた鳥羽伏見の戦いから始まる戊辰戦争が起こります。

戊辰戦争でもっとも激戦だったのが、官軍と長岡藩との戦いとなる北越戦争と土方と榎本武揚が率いる箱館政府との戦いでした。その北越戦争で長岡藩を率いたのが、河井継之助と言う人物です。この人は、幕末時に武士の時代は終わり、群雄割拠の時代になるだろうと予測し、かつ、長岡藩が譜代中の譜代という立場の間で悩みどおし、長岡藩をスイスのように軍事中立という、当時は敵か味方しかない時代に、ものすごく勇気のいる決断を下し、その為、最新の兵器を用意しました。その最新兵器とは、ガトリング砲と言われるマシンガンで、このため、長岡藩をせめて来た官軍は完全に圧倒されます。ただし、兵力の差という物理的な差があったことで、結局長岡藩は陥落します。

長岡藩は当時官軍に降伏する勢力がありましたが、河井の強力なリーダーシップでそれらは押さえ込まれ、結局長岡藩は河井に引きづられ、藩自体が滅亡してしまうので、今でも地元の長岡では河井を批判する人たちは多くいるということです。それだけ強烈なリーダーシップを持っていたんだと思いますが、河井のとって悲劇だったのは、やはり徳川幕府における譜代大名と言う立場であり、殿様自体が老中にもなるくらいの人でしたから、徳川への義理というものが、ものすごく足枷になりました。特に河井のように時代の動きが手にとるようによくわかる男にとって、本来であれば武士の時代も終わり、それを標榜する薩長と結んだ方が、間違いなく藩のためになる一方で、譜代大名と言う立場である以上、雪崩が起きるように薩長に追従するというのは、信義的にどうなのかという、現実と情実の間に立たされ、結局武装中立と言う結論を見出します。

ちなみに彦根藩は、徳川譜代筆頭なのですが、早々に官軍に味方をします。この彦根藩と言うのは、井伊直弼で有名な井伊家です。当初圧倒的に兵力が少なかった薩長を中心とする官軍は、時流と言うものが背景にありましたから、かつての徳川恩顔の大名家は、時間が進むに連れ、官軍に味方をして行きます。

で、北越戦争にも戻ります。しかし、最後は物量的に官軍が圧倒し、長岡城は落城、河井はその時の傷がもとで破傷風となり、命を落とします。河井の死後、彼の墓を鞭打つ人が絶えなかったといいますので、やりすぎてしまった結果でもあるし、長岡藩という藩が彼にとってはあまりにも小さすぎたと言うことも、長岡藩にとっても河井にとっても悲劇だったとしかいいようのない所だと思います。

司馬さんはこの河井を桂小五郎以上の人物だったと本書で書いていますが、それ以前にこういうすごい人を見つけ出してきた司馬さんの慧眼にはただただ驚かされます。ちなみに彼のことをブログで書いている人は案外いまして、
河井継之助という男
ラストサムライ
1090日 峠
と言う感じですね。

前に小泉総理が自身の演説で「米百俵」の事を例に上げたことがありましたが、これは長岡藩が北越戦争で負けたために、大幅に減知された原因をこの河井が作ったんですね。だから、歴史的な評価と言うのは凄く難しいところがある一方で、ものすごい勇気をもって歴史の流れに逆らった小藩の家老であった河井が、そうせざるをえなかった心情を考えると、気の毒だったなと今更ながら思うし、ひとりの人間の存在が敵味方に対して大きな被害を与えたと言うことを考えると、特に味方にとっては災難というしかなく、このあたりは凄く微妙なところだ。

ただ、すごい人生を送ったというところでは、この河井の人生と言うのは、司馬さんの筆力というのもあると思いますが、敵味方がはっきりした時代に武装中立という勇気と言う言葉が陳腐に聞こえてしまう決断をしたというのは、すごいと言うしかないと思う。

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